研究等業績 - その他 - 千代延 俊
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富山県上市町の下部中新統稲村水中地すべり堆積物の内部構造解析における三次元デジタル露頭モデルの構築と活用
荒戸 裕之, 山本 由弦, 山田 泰広, 保柳 康一, 金子 一夫, 國香 正稔, 白石 和也, 千代延 俊, 吉本 剛瑠, 関山 優希
日本地質学会学術大会講演要旨 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 2023 ( 0 ) 353 2023年
<p><b>1.はじめに</b> 発表者らは海底地すべりの発生メカニズムを堆積学的に理解し運動学的なモデルを構築することを目的に研究を進めている<sup>[1, 2, 3]</sup>.この過程で,一般的な地質調査に加えて三次元デジタル露頭モデル等を活用した地質解析を実施し,地すべり堆積体の多様で複雑な内部変形構造と滑動様式を検討したので,その概要を報告する.<b>2.手法</b><b>(1) 準備作業:</b>富山県上市町稲村露頭の調査に先立ち,作業員および重機を導入して,灌木や下草類の伐採と露頭前面下部の崖錐被覆堆積物の除去を実施した.<b>(2) 地質調査:</b>露頭下部の地表付近については,一般的な岩相層序調査ならびに堆積相解析を実施した。詳細な堆積構造および変形構造を観察するため,グラインダー等を用いて一部露頭面の研磨を行なった.露頭高所については高所作業車を用いて近接し,岩相層序および堆積相の解析を行なった.<b>(3) 空中写真撮影:</b>ドローンを用いて,鉛直上空からのシリーズ画像および各露頭面に直角の斜めシリーズ画像をオーバーラップ率が85%以上になるように撮影した.<b>(4) 三次元テクスチャーモデル製作と解釈への活用:</b>ドローン空撮のシリーズ画像を三次元モデリングソフトウェア「pix4Dmapper」に取り込んで三次元デジタル露頭モデルを製作し,これを用いてより確度の高い地層対比や構造解釈を行なった.<b>3.結果</b><b>(1) 層序・岩相・地質構造:</b>稲村露頭に分布する地層は,下部中新統福平層折戸凝灰岩部層の凝灰岩,凝灰角礫岩および凝灰質砂岩泥岩互層である<sup>[4]</sup>.互層中の泥岩にはまれに大型植物の葉片化石が含まれるが,年代決定に資する微化石あるいは大型化石は検出されていない.分布する地層は,岩相の特徴に基づき,下位からA~Gの7ユニット(A, E〜G:凝灰岩および凝灰角礫岩,B〜D:凝灰質砂岩泥岩互層)に区分される.互層中の泥岩層には,大小の生痕化石が認められる.露頭の範囲全体としては約25度の北傾斜で,大局的には安定した地質構造をもつ.<b>(2) ユニットDの変形様式:</b>同層は内部に顕著なスランプや撓曲,低角逆断層などの変形構造を有し,概ね10〜15m程度の層厚を有する.これらの変形構造は,層内の逆断層を境にした北側のみで観察され,逆断層の南側では下位のユニットB, Cと調和的で安定した走向傾斜をもつ.内部変形構造の観察されないユニットDの層厚は約5mである.<b>(3) ユニットDの鍵層追跡:</b>同層の互層は,堆積学的特徴の異なる8層(便宜的に下位からD1〜8と仮称)の凝灰質砂岩鍵層と挟材する凝灰質泥岩層の繰り返しからなる.凝灰質砂岩層の層厚はそれぞれ15〜55cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,10〜55cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同層は,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.<b>(4) 地すべりの滑動モデル:</b>以上の特徴から,これらの変形構造はユニットD堆積後の早い時期に北方から南方へ向かう当時の斜面下方へ同層が滑動し,層内の逆断層を先端としてそれより上流側が滑動方向に短縮したことによって形成されたものと解釈される.それらの変形が形成される過程は,1) ユニットDはある場所から上流側が基底面を境として滑動し,滑動しないユニットDに乗り上げる, 2) その過程で横臥褶曲を作るが,3) 活動による短縮量が褶曲で解消しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐しさらに乗り上げていく,4) こうした変形がオーバーステップ状に上流側へ波及することでユニットD, Eの変形が累積し成長する,と解釈される.<b>4.まとめ</b> 稲村露頭では,地質時代の水中地すべり堆積体の可視的な最小単位の変形構造を観察することができた.これらの空間的な位置および姿勢を詳細に記載するとともに,すべり面,低角逆断層面の物性を観察することで,その運動学的モデルを導出することができる.<b>謝辞:</b>英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該研究には日本学術振興会科学研究費(19H02397)の一部を使用した.<b>文献:[1]</b> 荒戸, 2018, 地質学会講演要旨, 110., <b>[2]</b> 荒戸, 2022, 石技誌, 87, 136-146., <b>[3]</b> 荒戸ほか, 2023, 堆積学会講演要旨, 9-10., <b>[4]</b> 金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.</p>
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Madokoro H.
Applied Sciences (Switzerland) ( Applied Sciences (Switzerland) ) 12 ( 15 ) 2022年08月
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北海道幌延町に分布する鮮新統から中新統の珪質岩に含まれる有機物の堆積過程の検討
村岡 亜美, 千代延 俊, 荒戸 裕之, マルティッツィ パオロ, 石井 英一
石油技術協会誌 ( 石油技術協会 ) 87 ( 1 ) 86 - 88 2022年
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秋田県男鹿半島生鼻崎露頭における更新統北浦層砂岩の淘汰度と孔隙率の関係
野口 貴德, 千代延 俊, 荒戸 裕之, 佐藤 宏大, 間所 洋和, 永吉 武志
日本地質学会学術大会講演要旨 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 2022 ( 0 ) 181 2022年
<p>【はじめに】</p><p> 秋田県西部に位置する男鹿半島には上部新生界が広く分布し,露頭の連続性も良いことから日本の代表的な上部新生界の標準層序として,多くの研究がなされてきた.本研究対象である男鹿市生鼻崎地域には砂岩,シルト岩,及び泥岩の互層が発達した北浦層の上部が海食崖を形成し大露頭を成している(鹿野ほか,2011).また,この露頭を対象に千代延ほか(2021)は北浦層砂岩泥岩互層における堆積物の地質セッティング,及び砂岩貯留岩性状を調査し,露頭画像と合わせた機械学習によるモデル化技術を検討した.その中では,単層スケールでの不均質性を画像上で明らかにするため,北浦層の砂岩部の色の違いに着目し,岩色と粒径分布及び孔隙率に相関があると認めた.ただ一方で北浦層砂岩部の色と孔隙率の関係は定性的な解釈にとどまり,定量的に評価しモデル化するにはより多くの測定点を加える必要があった.そこで本研究では,測定点の記録を増加し,砂岩層の岩色や岩相の違いと孔隙率,淘汰度の関係性から砂岩の不均質性を抽出する目的で検討を行った.</p><p>【研究手法】</p><p> 本研究では露頭調査として,対象とした岩相の柱状図を作成するとともに,幅6 m に渡り露頭のスケッチを行った.併せて砂岩単層を1 m 四方に区切り,定方位試料を合計101個採取した.さらに,調査対象層の孔隙率の分布を明らかにする目的で合計30枚薄片を作成し,定方位試料の鉛直方向面を観察した.孔隙率は撮像した検鏡画像から画像編集ソフトを用いて計測した.</p><p>【結果】</p><p> 調査対象とした砂岩の単層は砂岩優勢砂岩シルト岩互層中の中粒~極細粒の砂岩である.単層の上部には平行葉理が見られ,炭質物も多く認められた.砂岩の岩色は,赤褐色,褐色,灰色を呈し,この3種類に大きく区分することが可能である.その分布は褐色の割合が最も大きく,赤褐色及び灰色の割合はほぼ同程度であった.また灰色の部分に生物擾乱が顕著に発達している.</p><p> 砂岩の薄片の観察からは,全岩相で石英と有色鉱物が多く,わずかに斜長石も認められた.粒子の円磨度を見ると,褐色,灰色,赤褐色を呈する岩相のいずれも亜角礫~円礫であった.有色鉱物の量は,赤褐色が最も多く,褐色,灰色と減少した.孔隙率の測定結果からは,赤褐色の平均孔隙率は15.9%,中央値は15.8%で,褐色の平均孔隙率は 16.8%,中央値は16.6%,灰色の平均孔隙率は19.0%,中央値は19.1%であった.孔隙径やその連続性に注目したところ,赤褐色の孔隙径は約0.2 ~0.3 mmであり,連続性も乏しい.一方の褐色及び灰色の孔隙径は約0.5 ~0.6 mmであり,灰色の岩相で孔隙径の大きさに差違が認められた.孔隙を埋めるように存在する粘土鉱物も観察でき,赤褐色で最も多く認められた.また,石英や斜長石などの鉱物の大きさは灰色が最も大きく,次いで赤褐色,褐色と小さくなる.</p><p>【考察および結論】</p><p> 以上の結果より,中粒~極細粒砂岩の単層内で岩色の違いにより粒度の違いが認められ,岩色が砂岩の不均質性を表していることが明らかとなった.また,不均質性をもたらす要因として,粒度の違いだけでなく,孔隙率,孔隙径及びその形状も重要となることが示された.孔隙率や形状の変化は,孔隙を二次的に埋める粘土鉱物に大きく影響を受けていることが指摘できる.本調査より砂岩の不均質性は,粒度の違いだけでなく,孔隙率,孔隙径及びその形状の違いによることが明らかにできた.この結果は砂岩貯留岩の不均質性をモデル化する上で重要であり,今後の貯留層モデル構築への基礎データとなることが期待できる.</p><p></p><p><引用文献>千代延ほか,2021:JAPT講演要旨,鹿野ほか,2011:地質図幅</p>
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長岡CCS実証サイトのCO<sub>2</sub>砂岩貯留岩と不均質性
千代延 俊
日本地質学会学術大会講演要旨 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 2022 ( 0 ) 148 2022年
<p>【はじめに】</p><p> 実現性および即効性の高い地球温暖化ガス削減対策のひとつとして二酸化炭素回収地下貯蔵(CCS)技術がある.我が国では,2004年に地球環境産業技術研究所(RITE)が中心となり,新潟県長岡市の岩野原サイトにおいてCCS実証試験が初めて実施された.この実証試験では圧入井1本と観測井3本の坑井が掘削され,約10,000トンのCO<sub>2</sub>を地下1100 mの帯水層へ圧入し,4D地震探査,弾性波トモグラフィー,各種検層を用いて,地下へ圧入されたCO<sub>2</sub>の挙動をモニタリングしている.本講演では,長岡CCS実証サイトの砂岩貯留岩の岩相や不均質性の検討結果を紹介するとともに,その不均質性が地下でのCO<sub>2</sub>の挙動へ与える影響について発表する.</p><p>【地質概説】</p><p> 長岡サイトの圧入対象となった帯水層は,層厚が約60 mの更新統砂岩シルト岩互層で地表に分布する灰爪層から西山層に相当する.地震探査断面の解析から,地層は南北方向の軸をもつ背斜構造の翼部に位置し,サイト内では東方向へ傾斜する.地層は整合に累重し,層厚の側方変化が顕著である(Chiyonobu et al., 2013).そのうち,実際にCO<sub>2</sub>が圧入された層準は層厚12 mで,孔隙率は23%,浸透率は平均7 mDである(伊藤ほか, 2016).</p><p>【貯留岩の地質学的特徴】</p><p> CO<sub>2</sub>が圧入された深度は,観測井の位置で1108〜1120 mである(Mito et al., 2010).その圧入区間の岩石コア観察から,全体を通じて砂岩優勢砂岩シルト岩互層で,しばしば小礫〜中礫の亜円礫を含む.また,一部では礫岩層も認められた.堆積構造は,希に平行および斜交葉理を伴うものの,全体を通じて塊状で上方細粒化が認められる.CT画像を用いて堆積物の詳細を観察すると,塊状の砂岩では多数の生痕が観察できる.また,粒度分析からは総じて淘汰が不十分な層準が多く,希に淘汰度が良好な砂岩の存在が指摘できた.検層データを用いた浸透率および孔隙率からは,孔隙率の高い層準で浸透率が高くなるのは当然であるが,もっとも浸透率が高いのは密度が比較的高く,岩相としては淘汰度の良好な砂岩であった(Chiyonobu et al., 2013).</p><p>【CO<sub>2</sub>の挙動と貯留層の不均質性について】</p><p> CO<sub>2</sub>圧入層準では,圧入時のスピナー検層の結果から,顕著にCO<sub>2</sub>が圧入された深度が認められている(君島ほか, 2008).さらに,圧入後のCO<sub>2</sub>挙動を比抵抗検層によりモニタリングしており,CO<sub>2</sub>が多く圧入された深度では,圧入停止後もCO<sub>2</sub>が遊離ガスとして存在している(Mito et al., 2010).この層準は,深度1113〜1117 mに位置し,上述の高浸透率かつ淘汰度が極めて良好な塊状細粒砂岩に対比される.また,この淘汰度良好な塊状砂岩の下位と上位には,粘土粒子を多く含む砂質シルト岩が存在しており,遊離ガスの移動を遮蔽する役割を果たしている.これは,粘土粒子を含む淘汰が不十分な層準が,淘汰度良好な地層と比較して低浸透率となり,遮蔽層をなすことを示す.これらの結果から,地下環境においては,CO<sub>2</sub>が圧入され移動する経路としては,淘汰度が良好な砂岩層のみを選択していることが指摘できる.また,CO<sub>2</sub>の挙動をシミュレーションする上で,この砂岩の淘汰が良好/不十分な層準を的確に反映したモデルを用いると,気・流体の挙動予測の正確性が格段に向上することも明らかとなった.</p><p>【我が国の貯留対象砂岩層とCCS】</p><p> 我が国においてCCSの対象となる砂岩層としては,地質学的には新しい新第三系から第四系が多いことは既知であるが,その砂岩層は堆積盆の形成過程を踏まえると不均質性が高いことが想定される.今後のCCSの発展に対しては,不均質性など地質学的妥当性を踏まえた精度の高いCO<sub>2</sub>挙動予測を通じた信頼性の向上が重要となる.</p><p>【引用文献】</p><p> Chiyonobu et al., 2013, EGYPRO., 37, 3546-3553., 伊藤ほか, 2016, 地質雑., 121, 311-323., 君島ほか, 2008, JMMIJ., 124, 61-67., Mito et al., 2010, IJGGC., 2, 309-318.</p>
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(講演取消)秋田県八峰町八森における中新統女川層の岩相
松浦 三偲郎, 大柳 快晴, 千代延 俊, 荒戸 裕之
日本地質学会学術大会講演要旨 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 2022 ( 0 ) 347 2022年
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(講演取消)軟岩に対する圧密試験の有用性と新生界宮崎層群の形成過程
吉本 剛瑠, 鈴木 雄大, 張 鋒, 千代延 俊, 大森 康智, 山本 由弦
日本地質学会学術大会講演要旨 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 2022 ( 0 ) 231 2022年
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Yamazaki T.
Earth, Planets and Space ( Earth, Planets and Space ) 73 ( 1 ) 2021年12月
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佐藤 時幸, 加藤 凌, 千代延 俊
地質学雑誌 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 127 ( 10 ) 621 - 633 2021年10月
<p>新潟地域の石油坑井および地表から採取した七谷期試料の石灰質ナンノ化石調査結果は,中期中新世初期のNN5帯とNN6帯で新潟平野中央部が広大な非海域であったことを示唆する.</p><p>NN5帯の石灰質ナンノ化石の産出量は,調査地域南東部から北東部の北蒲原に抜ける狭い海域の存在を示唆する.NN6帯では新潟平野中央部から東山一帯で海域が急激に縮小するが,東部の北蒲原へ抜ける海域は依然残る.しかし,寺泊期になるとこの海域も消滅し,新潟地域の古海洋環境がMid-Miocene Climatic Optimum後でNN5帯末の急激な寒冷化とそれによるユースタシー変動の影響を強く受けたことを示す.</p><p>一方,中新世火山岩類を貯留岩とする油・ガス田の多くは石灰質ナンノ化石が産出せず,日本海形成時のリフティングと火山活動で形成された構造的高まりがそのまま油ガス田構造となったことを示す.</p>
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Madokoro H.
Sensors ( Sensors ) 21 ( 14 ) 2021年07月
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Martizzi P.
Marine and Petroleum Geology ( Marine and Petroleum Geology ) 128 2021年06月
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Emanuel S.
Island Arc ( Island Arc ) 30 ( 1 ) 2021年01月
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Aftabuzzaman M.
Island Arc ( Island Arc ) 30 ( 1 ) 2021年01月
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Kikunaga R.
Island Arc ( Island Arc ) 30 ( 1 ) 2021年01月
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Rendy
International Journal on Advanced Science, Engineering and Information Technology ( International Journal on Advanced Science, Engineering and Information Technology ) 11 ( 5 ) 2071 - 2081 2021年
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Sato K.
International Conference on Control, Automation and Systems ( International Conference on Control, Automation and Systems ) 2021-October 436 - 441 2021年
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The hydrocarbon potential of the Miocene siliceous formations in Tsugaru Basin, northern Japan, based on the geochemical analysis
千代延 俊
Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology 86 205 - 212 2021年 [査読有り]
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Zircon U-Pb dating of a tuff layer from the Miocene Onnagawa formation in Northern Japan
Yoshioka J.
Geochemical Journal ( Geochemical Journal ) 55 ( 3 ) 185 - 191 2021年
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北海道南部沖日高トラフの第四系最上部に認められる静内海底地すべり堆積体の形状および内部構造の特徴
荒戸 裕之, 山本 由弦, 山田 泰広, 千代延 俊, 白石 和也
日本地質学会学術大会講演要旨 ( 一般社団法人 日本地質学会 ) 2021 ( 0 ) 112 2021年
<p>1.はじめに</p><p> 海底地すべりが誘発する地すべり津波には,近年,防災上の注意が喚起されており,その規模や伝搬様式の数値シミュレーションが進んでいるが,多くは単純な形状の滑動体を前提としている.これは,海底地すべり現象の堆積地質学的な報告例が僅少なことが一因である.地すべり津波の挙動を正しく予測するために,海底地すべりの発生機構や滑動様式を堆積地質学的に正確に把握する必要がある.そこで著者らは,日高沖の「静内海底地すべり堆積体(以下,静内SLS)」が海底面直下に分布し震探上の分解能もよくコア試料の採取にも有利な点に着目し,堆積地質学的に現実的で数値シミュレーションに適用し得る地すべりモデルの構築を目指している. </p><p></p><p>2.静内SLSの特徴</p><p> 日高トラフを埋積する厚い砕屑物には,多数かつ大量の海底地すべり堆積体が含まれている<sup>[1, 2]</sup>.三次元震探の解釈からは,供給源方向に基づき8系統の,少なくとも86の第四系滑動体が確認された<sup>[3]</sup>.静内SLSは,静内系統のもっとも新しい地すべり滑動体である<sup>[4]</sup>.同滑動体は北海道南部日高沖約40km,水深約1,000m前後の陸棚斜面に位置し,南西方向に滑動した形跡をもつ.ある特定の層理面をすべり面とし,厚さ〜150m,長さ40km以上,幅約12kmの規模を有する.外郭は同層準の非変形層と垂直で明瞭な境界面で接し,側壁は直線的,下流側の前面は弓状である.層厚は,頭部外郭部で厚く尾部へ向かって減少する.また,頭部中央部から尾部中軸部にかけて上面に中央凹陥をもつ<sup>[5]</sup>.</p><p> 頭部は連続性の悪いスランプ褶曲で構成され,軸面は外郭側に傾倒し前面の弓状外壁と同心円をなす.滑動体内部の同心円状構造は,福島県沖の更新統でも観察される<sup>[6]</sup>.尾部の反射面は不明瞭である.中央凹陥部で滑動体の層厚は薄いが,内部に残存ブロックを含む(図)<sup>[7]</sup>. </p><p></p><p>3.海底地すべり研究の試み</p><p> 海底地すべりは,構造傾動,堆積速度変化,相対海水準変動,メタンハイドレートの分解などが原因とされるが,主因を理解するためには「いつ,どこが,どのような速度で」滑動したかを特定する必要がある<sup>[8, 9]</sup>.広い日高トラフ陸棚斜面のある一部に過ぎない静内SLSが滑動したことは,誘因が広域的であるにせよ弱層の存在が局所的であったためと,著者らはみている.しかし,こうした仮説を証明するためには,すべり面および同層準の滑らなかった面の岩相や物性の情報が不足している.</p><p> 一方で,隣接する浦河SLSを掘り抜いた試錐の堆積物試料からは,滑動体と下位の非滑動堆積物とに大きな岩相の差異は観察されない<sup>[3]</sup>.これは,地すべりの範囲を決定づけるものが岩相やすべり面の物性の差は微視的なものでしかない可能性を示唆する.また,その滑動体基底面が産ガスを確認した区間直近に相当する<sup>[10]</sup>ことは,僅かな孔隙の差や炭化水素の存在も弱層に関係する可能性を示唆する.</p><p> 現在著者らは,静内SLS基底部のすべり面が,周囲の同層準の滑らなかった面となにがどのように異なるのか,新データ取得とその検討計画を策定中である. </p><p></p><p>文献</p><p>[1] 辻野・井上, 2012, 海洋地質図77; [2] Noda et al., 2013, Geochem. Geophy. Geosys.; [3] 小瀧MS, 2021, 秋大卒論; [4] Arato, 2019, JpGU Abst.; [5] 荒戸, 2018, 日本堆積学会要旨; [6] Arato and Martizzi, 2019, IAS Abst.; [7] 荒戸, 2019, 日本地質学会要旨; [8] Kawamura et al., 2014, Mar. Geol.; [9] 川村他, 2017, 地質雑; [10] 石油資源開発(株), 2020, 調査報告書.</p>
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地球化学的分析に基づく津軽堆積盆地の中~後期中新世珪質岩層の炭化水素ポテンシャル
マルティッツィ パオロ, 千代延 俊, 荒戸 裕之
石油技術協会誌 ( 石油技術協会 ) 86 ( 3 ) 205 - 212 2021年
<p>中~後期中新世の珪質岩層は,日本の本州北西部を含む 北太平洋における石油探査の重要な対象と考えられている。本研究では,青森県南西部津軽盆地の DTH27-1号井で 採取された赤石層の珪藻質シルト岩と大童子層の珪質泥岩に関するデータを提示する。ロックエバル分析から得られた有機地球化学的データを用いて,青森西部における珪質泥岩の炭化水素ポテンシャルを評価した。全炭化水素量(S1+S2),全有機炭素量(TOC),および有機物熱熟成度(T<sub>max</sub>)の値は,珪質泥岩がこの地域の有望な根源岩であることを示している。しかしながら,青森県西部のこれらの地層は熟成度が低いことから,炭化水素は排出されなかったことを示している。この地域には生産性のよい根源岩層準は分布しないものの,津軽半島の大童子層と同年代の珪質泥岩は,青森県における石油探鉱の将来的な対象となる可能性がある。</p>